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2026/06/10
「展覧会の絵」はどのようにして生まれたか|ムソルグスキーと親友ガルトマンの物語

上の肖像画は「ムソルグスキー」。
肖像画の通り、ムソルグスキーは厳しく、激しい人だったようです。
ムソルグスキーがこの「展覧会の絵」を作った頃、彼の書いた曲は殆ど評価されないことが続き、心も傷つき、お酒を飲んで引きこもってばかりいました。
紳士的であったムソルグスキーの変わり果てた姿を見て、今まで近くにいた友達も、ひとり、ふたり・・・と去っていきました。
しかしムソルグスキーには最後まで一人だけ、心を許せる友がいました。
建築家で画家のガルトマンです。

ガルトマンはムソルグスキーとは対照的で、活発で明るい人だったようです。
ムソルグスキーとガルトマンは、これまでヨーロッパで身分の高い人やお金持ちの人々のために書かれた、お洒落な絵や音楽ではなく、身分も高くなく、お金持ちでもないロシアの普通の人々を、ロシアらしい絵や音楽で表現したい、という同じ志を持っていました。
ムソルグスキーは、「ロシア民族の歌を後世に残すことが我々の責任である」とも言っています。
ムソルグスキーとガルトマン、二人ともなかなか世間から評価されない日々を送っていましたが、お互いに尊敬し合い、認め合った、かけがえのない親友でした。
ところがある日ガルトマンは、39才の若さで突然亡くなってしまいます。
ムソルグスキーは大変なショックを受け、深く悲しみました。
死の知らせをガルトマンの妻から受け取ったムソルグスキーは、こんな風に言っています。
「たった2行の知らせが僕を打ちのめした。僕はベッドに倒れ込み、そのまま翌日まで起き上がれなかった」
そんな中で、ガルトマンの残した絵の展覧会が開かれました。
そこにはなんと、400点もの絵がありました。
会場を訪れたムソルグスキーは、ガルトマンの残した絵を見て、彼の芸術への強烈なエネルギーと一途な心に心底感動し、魂を揺さぶられ、自分もほとばしるような情熱をもってこの曲の作曲に没頭し、わずか3週間ほどで、この素晴らしい名曲、「展覧会の絵」を書き上げたのです。
3週間というのは、ムソルグスキーが他の曲を作曲した期間と比べると、異例の早さです。
私は、殆ど死人のように過ごしていたムソルグスキーに、まだこのような力が残っていたのかと思うと、人間の力というのははかり知れないものがあるのだと、心を打たれました。
ムソルグスキーは、世間で認められることはなくても、自分の信じるものをひたすら描き続けたガルトマンの志を目の当たりにして、いてもたってもいられなかった、書かずにはおられなかったのではないでしょうか。
そんな風にして生まれた展覧会の絵。
ムソルグスキーは、若くして命を失ってしまった親友ガルトマンの思いを引き継いでいきます。
この曲は、画家で建築家でもあったムソルグスキーの親友ガルトマンの描いた絵の中から、10枚の絵を選んで、それぞれの絵でムソルグスキーが感じたものを、音楽で表現しています。
少し注意が必要かなと思うのが、ムソルグスキーはそれぞれの絵を音楽で描いたわけではなく、あくまでもその絵を見て自分が感じたものを音楽にした、ということです。
このことは、弾いていると実感として理解できます。
そしてこの10枚の絵をもとにした曲の間に何度も「プロムナード」という曲が出てきます。
「プロムナード」とはフランス語で「散歩」の意味。
1枚の絵から次の絵に歩いていく様子とその心の様を表していると言われています。
プロムナードは同じメロディーをもとに作られていますが、毎回全く表情が異なります。
さて、1曲目「グノーム」。

低音で恐ろしく始まるグノーム。
グノームとはロシアの精霊で、奇妙な恰好で動き回りながら、地の底の宝を守っていると言われているそうです。
この曲には、地の底で呻いているような、泣いているような表現が出てきたり、悲痛な叫びのようなものも聴こえる気がします。
ムソルグスキーはロシアの農村の生まれで、ロシアの民話や民謡をたくさん聞いて育ったようです。
「ロシア民族の歌を後世に残すことが我々の責任である」と話していたムソルグスキー。
プロムナードが終わって1曲目にこのロシアの精霊「グノーム」を持ってくるというのは、やはりこの曲をロシアらしいものから始めたかった、というムソルグスキーの思いが伝わってくるようです。

2曲目「古い城」
少し見にくいのですが、古いお城の前に人が立っています。
この人は「吟遊詩人」と呼ばれる人で、昔、村から村へ、町から町へ旅をしながら、詩や物語を歌に
のせて語っていた人のことです。
映画も、テレビもなかった時代。
見知らぬ異国の歌や物語を聴くことは、人々にとってとても興味深かったのではないかと思います。
ひとつの物悲しいお話を歌っていくようなこの曲。
左手はきっと、昔のリュートという楽器を表しているのでしょう。
弾いていると、永遠に続いていくかのような左手のリズムが不思議なループ感を生み出し、まるでこのお城が、今でもどこかでひっそりと佇んでいるような感覚になります。
『テュイルリーの庭 ― 子どもたちの遊び』から、『キエフの大門』までの曲についての解説は、また少しずつ。
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